2002年11月16日土曜日

デフレから脱出するための具体策

2002.11.16


先月の「視点」でマルクスモデルを使ってデフレスパイラルの原因究明とその対策を考えてみたけれど、ちょっと評判が悪かったみたい。お給料を減らせとは何事ぞとの苦情が寄せられました。だから利害関係者は困るんです。経済の議論は私利私欲を離れてやらねばならないんですがね。でもたしかに純粋理論的(悪く言えば知的遊戯的)な議論だったことは認めます。今回はもうちょっと具体的に何をするべきか考えてみます。三つあります。

一つには、インフレ期待を醸成することです。デフレスパイラルはみんなが更にデフレが進行するだろう(将来物価が下がるだろう)と確信することから生じるわけで、みんなが将来物価が上がることは確実という認識を持てば直ちに投資活動は再開されます。これは定理的な問題で正しいかどうかの議論の余地はありません。でもどうやってインフレ期待を醸成するか。これが問題です。考えますに円安誘導しかないでしょう。日銀は直ちにドル建ての米国国債を大量に買い付けるべきです。そして円安誘導の覚悟を内外に示す。外国への配慮が必要とか馬鹿なことを心配している場合じゃありません。第一、米国は日本がこのような体たらくで低迷を続けられるよりはドル高を歓迎するという立場ですから文句は言わないはずです。中国の人民元はだいたい安すぎるのだから中国から文句を言われる筋合いはない。東南アジアの国々にしても、日本のデフレスパイラルが続いて困っているわけですから日本の景気回復を歓迎します。それなのに外国への気遣いから円安誘導に消極的な日本人がいますが、本心は、そんなきれいごとではなく自分がタンス預金している円建て資産の(ドル評価での)目減りを心配しているからに過ぎません。断固やるべしです。政府日銀さえその覚悟を示せば内外の投資家は一斉に円を売ってドルを買います。インフレ期待が一挙に具現化します。投資は再開されます。

二つ目は、国内公共事業です。公共事業と言えば拒絶反応を示す人がいますが、やらなければならないものはやらねばならない。具体的には都市部の電柱電線の地中化です。あんなみにくい電柱を外に出して都市景観を著しく醜悪なものとしている国は、先進国の中では日本だけです。いずれやらねばならないものなら不況である現時点で直ちにやりましょう。ただ財政赤字の問題がある。また税金で国民からお金を吸い上げて公共事業をすれば差し引き同じことで景気刺激効果はありません。そこでどうするかですが、電柱の地中化は電力会社に特別の電力債を発行させてそのお金でやるのです。その電力債には政府が保証を付けてもいいでしょう。また相続税の対象から外すとかの税制優遇措置も講ずるべきです。そうすればタンス預金で眠っている個人金融資産の相当部分は電力債購入に向かうでしょう。海外にこっそり隠そうとしていたお金も国内にとどまるかも知れません。いずれにしてももともと税金の取りようがなかったお金ですから、少々の税制優遇措置をとったところで、国税当局として期待税収の減少とはならないはずです。一銭の税金も使うことなく、電柱地中化を義務付ける法律を作るだけで巨額の「公共的」事業が推進出来るのです。個人金融資産の1%がそれにまわったとして14兆円です。十分な景気浮揚効果を経済にもたらします。

三つ目は、年金制度の見直しと確定です。公的年金ではゆとりのある生活を送ることが出来ない上に、その公的年金制度が維持されるかどうかすらはっきりしない状況下、国民は貯蓄に走り自己防衛を図る以外道はありません。更に世代間の不公平感が高まっており、世代間の醜い損得勘定の議論ばかりが目立ち、いずれは年金制度は崩壊するだろうとの予想の元に若者は年金システムから離脱をはじめています。老後に対する不安は高年者以上に若年層で強いと言えるでしょう。どういう制度でもいい。とにかくどういう状況になろうとサステイナブルな年金制度に改めて、これを将来に渡って一切変更しない事を国民に示すべきです。それがあってはじめて若い世代も含めて国民は安心して消費が出来ることになるのです。制度変更によって、現在の受益者(中高年)が多少の損害を被ることになっても、それは国家百年の計のために我慢すべきでしょうが、基本的には多少の負担増が発生してもいまの若年層が貯金なしでゆとりのある老後を送りうるだけの西欧並みの豊かな年金制度とするべきです。現在の公的年金だけでは生活できないと言うのが常識化していますが、こんな制度は先進国として恥ずかしいと言うべきでしょう。現在の年寄りは多少のことは我慢できますが、将来の制度ではもっと給付を充実させるべきだと思います。老後の安心なくして心豊かな現役生活はないのです。

以上が三つの提案です。どうしてこんな簡単なことがすぐ実施できないのでしょうか。当たり前のことを当たり前にやれないこの国のシステム疲労に深い絶望感を感じる今日この頃です。

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